研究内容

 

私たちは、微生物の“生き様”を理解し、微生物弊害における問題解決や微生物の有用な機能を利用した技術の開発を行っています。具体的には、以下のテーマに取り組んでいます。

 

微生物間における「会話」の制御

 微生物は化学物質を細胞の外に分泌し、その化学物質を言語として用いてお互いにコミュニケーションしています。そして集団となった際に低菌体数では成し得なかった機能を発揮します。例えば、病原菌における毒性物質生産や、放線菌等による抗生物質生産、汚染水の浄化などが挙げられます。私たちは分子生物学、生化学、有機化学といった幅広い観点から、微生物間コミュニケーションの機構を理解し、微生物を集団として制御する新手法の開発に取り組んでいます。

緑膿菌の病原性を抑制する物質の発見。

緑膿菌はPseudomonas quinolone signal (PQS)という情報伝達物質によって会話し、ピオシアニンという緑色の毒素を生産しています。私たちは緑膿菌を殺さずに毒性のピオシアニン生産を抑える事の出来る物質を新たに発見し、病原菌を制御する新たな手法を見出しました。

 

微生物が分泌するベシクルの動態解析と利用

 近年の急速な細胞可視化技術の発展により、微生物細胞から直径20-200 nmのベシクルが分泌されている事が明らかとなってきました。このベシクルは、様々な物質を特定の微生物細胞に送達するマイクロデリバリー機能を有しています。しかし、このベシクルがどのように微生物細胞から分泌され、その後どのような機構で細胞に融合していくのかわかっていません。私たちは、生物物理学・分子生物学を用いてベシクルの分泌機構、細胞融合機構の解明を目指しています。また応用研究として、特定の物質を細胞に送達するためのツールとしてベシクルを利用できるよう開発を行っています。

 

微生物が作るガス小胞の解析

 微生物の中には、中にガスを溜め込んだ小器官を細胞内に形成するものがいます。これまでにガス小胞はシアノバクテリアやハロアーキアで多く見つかっており、ガス小胞を形成する事によりこれらの微生物は浮力を高めて気液界面に移行します。ガス小胞の外殻はタンパクで構成される膜であり、気体を透過させるものの液体を透過させない特殊な構造をしていることから、様々な応用が期待されています。私たちはガス小胞が形成される複雑なメカニズムを解明するとともに、ガス小胞の新たな利用への展開を目指して研究しています。

 

バイオフィルムの形成機構解明とその制御

 バイオフィルムは細菌が物質表面に作り出す集合体で、お風呂場のぬめりや虫歯・歯周病などでよく見られます。一旦細菌がバイオフィルムを作り出すとその除去が非常に困難となるため、その制御法が求められています。私たちはバイオフィルム形成のメカニズムを解明することによって、その形成を制御する新たな手法を開発しています。また、バイオフィルム内では細菌は浮遊状態とは全く異なる性質を持つことがわかってきました。私たちはバイオフィルム内で特有に引き起こされる現象にも着目しています。